デザインとはなにか-課題解決ではないデザインにしかできないこと

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アートは問題提起、デザインは課題解決、このように考えている人は多いと思います。

デザインが課題を解決することはあり、それは事実ですがデザインは課題を解決するだけのものではありません。むしろデザインの本質は課題の解決ではなく、新しい価値の発見と提示です。

デザイン思考とデザインは違う

なぜデザインは課題を解決するものだという考えが広まったのか。もっとも大きな影響があったのはIDEOのCEOティム・ブラウンが広めた「デザイン思考」でしょう。日本ではティムブラウンが書いた「デザイン思考が世界を変える」も多くの人に影響を与えました。

デザイン思考が世界を変える ティム・ブラウン

デザイン思考がなぜ、デザインは問題解決するものであると定義づけることになったのか。これはデザイン思考の考え方が課題解決を目指しているからに他ありません。
デザイン思考は以下のプロセスで進められることが多いです

  1. 仮説の課題提起
  2. 課題解決のための発散(ブレインストーミングなど)
  3. 意見統合
  4. ラピッドプロトタイプの制作
  5. 検証(1に戻る)

これをみてもらうとわかるようにスタートが「課題」です。さらにデザイン思考が最も流行って取り入れられるようになったのがビジネスパーソンを中心とした人々だったので、課題とはビジネス上の課題であることが多く、例えば商品が売れないとかサービスが成長しないということをデザイン思考で解決するといった取り組みが多く行われました。アウトプットは視覚的なデザインになることもあればそうでない場合もありました。

それ自体は何も悪いことではないですし、なんらかの解決を導くことも多くあったと思いますが、デザインとデザイン思考は全く別の行為だと理解する必要があります。

デザイン思考とは 課題解決を目指さないアウトプット

デザイン思考はチームで知識や思考を共有し、課題を発見したり解決策を思考したりする行為です。一方デザインは価値のある「視覚的なアウトプット」を出すことが目的です。ここについては様々異論があると思いますが、あえて限定しています。

デザインという言葉がビジネスデザインや組織デザイン、コミュニケーションデザインなど広義になればなるほど、視覚的なデザインへの言及が減ってきますが、本質的にはデザインとは視覚的なアウトプットに尽きると思います。価値のある視覚的なアウトプットが、深い体験や満足感につながるのです。そして価値のある視覚的なアウトプットをだせるのは今の所デザイナー以外にはいません。
そして価値のある視覚的なアウトプットは課題の解決を目指しているわけではありません。

iMac、iPhone、ウォークマンなど多くの優れたデザインをもったプロダクトは課題を解決するために生み出されたものでしょうか。初めて車を量産したフォードが「もし私が何が欲しいかと聞いていたとしたら、人々は『もっと速い馬』と答えただろう」という言葉を残していますが、人の想像の範囲外の発明があったからそれはイノベーティブだったのです。iMacが発売された時、ベージュ色の地味なパソコンに疑問を持っていた人がどのぐらいいたでしょうか。ボンダイブルーのパソコンが欲しいという人は誰もいなかったと思います。

初代walk man

iMacを作ったジョブズも影響を受けたSONYの初代ウォークマン sony初代walkman

結果的にiMacは明るい色のおしゃれなパソコンが欲しかったという人の課題を解決したのかもしれませんが、結果が先にあってそれを見た人の心を動かしたのです。

これはiMacのようなイノベーティブな製品だけではなく、普段目にするアプリのUIや、製品のデザインやバナー、お店で目にするPOPなど程度の差こそあれ、視覚的なアウトプットはこのような結果を生んでいるのです。そしてこれこそがデザインの役割です。

デザインは変わらないがデザイナーに求められるものは変わる

デザイナーは、培ってきたビジュアル構成力とクリエイティブ能力を使いアウトプットを出します。アウトプットはインプットが元になることが多いですし、インプットの一つに「課題」があることもあります。ただ、本当に優れたアウトプットは課題の答えではありません。インプットを咀嚼して新しい価値を提案する。インプットとデザイナーがそれまで経験してきたビジュアルクリエイティブに関する知識や技術を織り交ぜて新しい物を提案する、それこそがデザイナーが行うデザインの役割です。

デザインの役割は今後も本質的には変わらないと思います。一方でデザイナーに求められる役割は少しずつ広がっています。具体的には、ビジネスやマーケティングの領域を理解しそれとデザインのアウトプットを結びつけることを求められることが多くなってきました。幅広い領域に見識のあるデザイナーは重宝されることが多いですし、デザイナーは様々なことを学ぶ必要もあると思います。
しかし、本当にデザインにしかできない価値は一つだけです。そしてデザイナーはデザインをすることで本当に価値のあることが生み出せると思っています。
自分はそこを見失わずにデザインの活動をしていきたいと思っています。

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