デザイナーの報酬を上げる方法

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「給料が安すぎる国・日本…この国に「賃上げ」が必要な理由」という東洋経済新聞社の記事を見て思ったことを書いた記事です。

給料が安すぎる国・日本…この国に「賃上げ」が必要な理由

詳細は中の記事を読んでいただきたいですが、ざっくりまとめるとこんな内容です。

1997年の金融不安をきっかけに企業の経営方針は保守的になり、積極的な投資(賃上げ含む)が行われなくなった。
結果、企業の内部留保は増えたものの消費サイドの原資が増えていないため経済活動は鈍化、中で働く人の成長も促せない状況が今まで続いた。
当然賃金もただ上げれば良いと言うわけではない。技術改革が進み単純労働が減り労働分配率が下がり高齢化が進む中で、企業が賃金をあげる理由が見つかりにくい。
結果付加価値性の高いIT関連技術を持つ人が給与が高くなる傾向があり、所得差が広がる結果になる。
内部留保の有効活用、人口減少対策、技術進歩の成果を再分配していくことが必要。

と言うわけで今回は、上記内容とは観点が違いますがデザイナーの報酬の上げ方に関して書いてみます。

日本のデザイナーは給料が低いのか

デザイナーの報酬をあげる方法と題していますが、すぐにこれをやったら儲かると言う話が書いてあるわけではありませんので誤解なさらぬようお願いします。どう言う思考でデザインという仕事に取り組んでいくべきかを考えてみたと言うお話です。

デザイナーの低賃金化は全く他人事ではありません。そもそも日本人のデザイナーは職種平均と比較しても、海外と比較しても給料が安いと言われています。

海外のWebデザイナーの年収は、アメリカで約780万円、カナダでは約580万円、物価の高いイギリスでは約420万円と言われています。対して日本人のデザイナーの平均賃金は390-420万ぐらいです。
JOB-Qより
JOB-Q

日本のデザインの歴史が本格的に始まったのは1960年の世界デザイン会議頃からだと考えます。ちなみに世界デザイン会議の実行委員会は坂倉準三が代表に、丹下健三、柳宗理が努めている。参加者の多くも建築家かインテリアデザイナーです。
デザイナーとは建築を作れる人間かプロダクトを作れる人間だったのです。

※世界デザイン会議にも参加したグラフィックデザイナー亀倉雄策 朝日新聞社 - 『アサヒグラフ』 1952年12月3日号
※世界デザイン会議にも参加したグラフィックデザイナー亀倉雄策 朝日新聞社 – 『アサヒグラフ』 1952年12月3日号

残念ながら当時の建築家の給与水準はわかりませんが、建築家は高度なスキルを要するため現在の建築家の給与水準と同様高め、もしくは希少性を踏まえると今よりも高いことが予想されます。
この頃はデザイナーと呼ばれる職能に括られる職業の人は比較的給与が高かったということです。

グラフィックデザイン全盛期からインターネット創世期

その後1980-90年台にかけてグラフィックデザインが最盛期になります。企業はCIを刷新しビジュアルコミュニケーションにお金をかけました。CDなど物理的に手に取るもののグラフィックに手が最もかけられたのもこの頃です。

そして時代は1996年のWindows発売以降からインターネットの時代となりました。それまでなかった職業としてWebデザイナーが生まれました。当時はデザインからコーディングまでを行うのが一般的でしたが、現在ではコーディングのスキルがエンジニアリングスキルに寄っていったため職能は分離している場合も多いです。

あくまで体感ですが、この頃まで周囲のデザイナーは比較的裕福な人が多かった気がします。

消費のスピードに生産が追いつかない

この間デザインに関する技術も進歩し続けました。1988年に発売されたAdobe Illsutratorから始まり、PhtoshopやXDなど無数のアプリが発売され、ソフトウェアに搭載されている技術を使えばそれなりのデザインをすることが可能になってきました。デザイナーになると言うことはアプリを使う技術を身につけることと同義語と考えている人も少なくありません。

またマーケティングの舞台がWebに移行していくにつれてデザインが消費されるスピードがどんどん早まってきました。結果デザインの生産にもスピードが求められ、ほとんどの現場ではそれなりデザインをなるべく早く上げてくれるデザイナーが重宝されています。ここで最も重要なのはこのデザイナーは基本的に安価ということです。

それなりのデザインしかやらないのであれば報酬が安価になるのは当然です。問題はこのデザイナーが品質の高いデザインができるかできないかではなく、クライアントや消費者がそれを求めているかどうかです。そこからデザイナーの価格暴落が始まり現在に至ります。

※ココナラのデザインカテゴリトップ画面。
※ココナラのデザインカテゴリトップ画面。

ココナラを見ると非常に安価でチラシやロゴを作るというデザイナーが無数にいることがわかります。これも見ても多くのクライアントや消費者がそれなりのものを手早く上げてもらえることを求めていることがわかります。しかもココナラなどで提供されている品質は大手デザインプロダクションや広告会社で働いていた人が副業で仕事しているケースもあり、それなりと言われていたレベルを超えてきています。十分品質の高いレベルのデザインをそこそこの単価で発注できる様になってきています。これはこれで新しいデザインの需要と消費の形が生まれています。

報酬をあげるのに必要なこと

チラシやロゴというのは視覚的に差分がわかりづらい領域です。Webデザインも適当なデザインならWordpressのフォーマットやWixなどでそれなりにできてしまうし、正直それ以上のものはそこまで必要とされない事が多いです。

もちろんある一定の世界観やUXを訴求するためには、グラフィック、カラーコントロール、写真、フォント、ストーリー、ダイナミクスなど総合的に考える必要はあります。さらにビジネスモデルやブランド構築まで踏み込めるか、踏み込めないかでもアウトプットの質は大きく変わってくるため、ただ言われた通りに手を動かしているだけでは高い付加価値は産めません。

一方で、最終的に質の高いビジュアライズされたアウトプットにできる力というのはデザイナーとしての脳味噌がうまく使えるかどうかが大きく関わっている。どんなにビジネスとブランドを理解したとしてもアウトプットするには特殊な脳の使い所があります。

なのでデザイナーという職業の未来が暗いものだとは決して思っていません。しかし本当にデザイナーとして仕事をし、豊かな生活をして生き残りたいのであればいくつかのスキルを併せ持つことからは逃れられないと思います。
方法論はいくつもあり、動画を作る方向に進化させる人もいるし、ブランディングをやっていく人もいます。あるいは副業で収入を増やすと言う道もあるかもしれませんが、これは仕事の量を増やしているだけで、本質的にデザイナーとしての収入が増えたとは考えないことにします。

また、海外と比べた場合のデザイナーの平均賃金は低いのは変わりませんが、国内でみると事業規模1,000人以上の規模のデザイナーだけは他業種の平均賃金396万円よりやや高い420万円という数字が出ています※。

ここにも報酬をあげるヒントがあると思います。デザイナーになったら大きな会社に入れる様に努力すると言う単純なものではありません。事業規模の大きい会社の方が比較的大きいアウトプットをじっくり出す様な仕事が存在しているからだと思います。

※令和2年賃金構造基本統計調査 より
e-stat
デザイナーとして給与をあげるのであれば、過去のデザイナーと呼ばれる人々がそうであった様に、希少性が高くアウトプットが大きくなる仕事に取り組めるように、身の置き場所を探していくことが重要、当たり前ですが再認識しました。
これを頭に入れてデザイナーとしての生活を送っていきたいと思います。

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