noteを見直していたら過去に「2022年のデザイナーの暮らしを予想する デザインには政治が大きく関わる」という記事を書いていたので久しぶりに読んでみました。
記事を書いたのは、コロナが落ち着きつつある2021年の11月で、ちょうど衆議院選挙2021が終わったばかりの頃です。2018年には、経済産業省から「デザイン経営宣言」が発表され委員会からはデザイン経営に関する5つの政策提言も出されていました。
あれから2年半、さぞやデザインに対する社会の認識や政府の施策は進んでいるのではと思ってしまいますが、実際のところはそう単純でもなさそうです。
AIの普及とIDEOの解散
デザインに最も大きな影響があったのはAIの普及ではないでしょうか。影響があったと言ってもデザイナーの仕事がAIで減ったというところまでは、いっていないと思いますが、デザイン、主に何かを視覚化することに対する人の認識は変わってきたと思います。何しろ、なんとなくこういう絵が欲しいと思ったことをテキストで入力するだけでビジュアルが生成されてしまうので世の中の人にとってビジュアル化することは相当身近になったのではないでしょうか。またカルビーやマンダムなどパッケージデザインにAIを活用する企業も出てきています。
マンダム、パッケージデザインに生成AI 1週間で40案 – 日本経済新聞 パッケージデザイン開発に生成AI(人工知能)を取り入れた「マンダム 冷肌ミスト リフレッシュミント」。生成AIを用いた画像 www.nikkei.com
IDEO TOKYO撤退、人員の25%をカット
もう一つの大きな出来事は、デザインシンキングで有名なIDEOが2024年東京から撤退することです。
Design Thinking Pioneer IDEO Lays Off 25% Employees Ideo lays off 125 employees and closes offices in Munich and justlayoffs.com
このニュースは衝撃的で、ニュースが出たばかりの頃はデザイン思考は終わったなどという人も結構いたりしました。実際デザイン思考は終わったんでしょうか?
デザイン思考は普通になっている
実際のところ、デザイン思考は終わっていないし、ちゃんと始まってすらないのではというのは自分の感想です。デザイン思考は課題発見から検証までのプロセスのことを指していますが、本当に重要なことは課題を発見することでもなく、検証することでもなくデザインをすることです。デザイナーはデザインをするために課題が何か、どうやればその課題に向き合えるかを考えますが、そのアウトプットを作り出すことが本当は重要なのです。アウトプットを出すためには、デザイン思考というフレームワークだけではなく、それまでに培ってきた知識や経験、スキルが必要です。一般的なビジネスパーソンがデザイン思考を取り入れてアウトプットを出そうと思っても最も重要なものが欠けていれば、それは本当に必要なアウトプットにはならないでしょう。デザイン思考というフレームワークは、世の中にだいぶ浸透したと思いますが、本当に重要なデザインへの実践を行わずにデザイン思考についてのマイナスなイメージがついてしまったのは残念でした。
政策はどうなっているのか
前回の記事を書いた時点では、デザイン経営の主管は経済産業省と特許庁が担っていましたが、今は特許庁のみがデザイン経営を担っているようです。(経産省のページからデザイン経営についての記載がなくなってます)
特許庁が主管となったため知財に関する情報が増えてきています。
取り組みとして、啓蒙ツールはいくつか作っていますし、その内容もとてもわかりやすく良いとは思いますが、これで本当に日本のデザインというものがよくなるのかというのは若干疑問があります。
これについては三菱総合研究所が言及しています。
海外では、具体的なデザイン政策と補助制度を合わせて展開することで、民間の実践を支援する事例も見られる。例えば、インドではデザイン評議会が中小零細規模の製造企業がデザイン・ブランド創造 企業となるよう支援する体制が整っている。デザイン意識向上のためのセミナーやワークショップ、コン サルティングサービスを受けることができ、補助金の支給も受けることができる」。
〜中略〜
我が国における政策はデザイン政策のコンセプト策定やデザイン業界の気運を高めるイベントの開催に留まっており、民間企業への支援策は不充分である。またデザイン政策の効果測定がされていないこ とから、デザインやその政策の有用性に関して企業や国民の意識を啓発する段階まで及んでいない。
我が国の新・デザイン政策研究より
我が国の新・デザイン政策研究 ~海外のデザイン政策動向・教育事例調査、デザインが企業経営に与える効果の先行研究レビュー~ 詳細版報告書 2022 年4月 経営イノベーション本部 DESIGN×CREATIVE TEAM 経済産業省 商務・サービスグループ デザイン政策室
2024年以降のデザイナーはどう生きる
前回の記事で書いた通り、我々の暮らしには政治や経済が大きな影響を与えています。2024年4月時点では、円安が進みまくって1ドル158円まで下がっていてデザイン経営よりも経済なんとかしてくれと思う人も多いでしょう。
ただ残念ながら経済への特効薬はおそらくなくて、本質的には日本が世界的に競争力のあるプロダクトやサービスを提供できるようになることが最も経済に大きい影響があると思います。そのためには遅れ続けているデジタルやデザインの教育と投資をするしかないのではと思います。
それこそ政治しかできない大規模な社会を変革するための動きです。2024年の政治には本質的な日本の成長への投資を期待したいです。