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2021.5.8

能登町のイカモニュメントはなんで批判されてしまうのか


Twitterで話題になっていることを書いてみる第二弾です。

yahooニュースなどにも出ているのでご存知の方もいるかもしれませんが、石川県能登町で新型コロナウィルス対策地方創生臨時交付金を使い、巨大なイカモニュメントを作ったことに対して一部で否定的な声が聞かれたという話です。



能登町イカモニュメント
※巨大イカのモニュメント 写真:能登町

この話は大きくふたつの論点があると思いました。
一つは臨時交付金の使い方が適切なのか、もう一つはモニュメントが効果的なのかという点です。

能登町のイカモニュメントはなんで批判されてしまうのか

お金の使い方は適切だったか

結論から言うと臨時交付金の使い方が適切かどうかは今はわからないが、あまり筋がいい使い方ではないのでは、というのが率直な意見です。

まず、町がこのモニュメントを設置した目的は「パンデミック後に観光客を呼び戻すための長期的な計画の一環」です。

能登町小木は、古くからスルメイカ漁の産地として知られているため、町の産業の象徴であるイカのモニュメントを設置することで観光客を呼び寄せたいという意図らしいですが、そもそも最近では水揚げが減少しているそうです。

最近は外国船籍の影響などで水揚げ量は減少し、コロナ禍で観光客も激減。
yahooニュース

水揚げが減少していて水産資源として売りが弱くなっているのであれば、その保護活動に予算を回すとか、水揚げが少なくなってしまったことを補完するような付加価値の創造、例えば商品化やブランド化、高単価での販路開拓などにもっと予算を使った方がよかったのではと思います。

また、水揚げが戻ったとしてもコロナ後に人の移動が以前のような形で戻るかどうかはわかりません。であれば家に居ながらにして観光が楽しめるような仕組みや商品開発などに注力するというやり方もあったのではないでしょうか。

ちなみに地方創生臨時交付金の活用に関してはこちらの資料で具体的な使用例が109例にも渡り挙げられています。

臨時交付金活用事例

その中で今回の使い方が当てはまりそうなのは「70.地域の名産品魅力発信事業」です。

地方創生臨時交付金使用用途

※臨時交付金活用事例より

他の支援施策の対象とならない又は超える部分について、地方公共団体が、地域内の特産品を地域内外にPRするため、その商品パッケージのデザインやホームページ・動画の作成等をフリーランスのデザイナーや地域の団体等に委託する経費に充当。

モニュメントを作れとは書いてませんが全く当てはまらないのかといえばそうでもないかなという印象です。そうなるとあとは本当にこのモニュメントが名産品の魅力発信のやり方として正解だったのかという問題になります。

モニュメントは効果があるのか。バブル的過ぎる?モニュメント設像

人はお金があるとモニュメント作りがちです。

これは別に現代になってから始まったわけではなく紀元前から秦の始皇帝が始皇帝陵、エジプトでピラミッドが作られたように人間の生きた証として巨大なモニュメントを作ってきました。

日本において地方でモニュメントがたくさん作られるようになったのは1988年から1989年に地域振興のために行われた「ふるさと創生事業」がきっかけだったと思います。

各自治体に1億円の大盤振る舞い、ふるさと地方創生事業とは

ふるさと創生事業は各市区町村に対し地域振興のために1億円を交付した政策です。しかも使い方は完全フリー、自由なので自治体が使いたいことなんでも使っていいというなかなかな政策です。
時の総理大臣は竹下登は「使い道によって地域の知恵と力が問われる」と言ったとか。

ふるさと創生事業

ウィキペディアのふるさと創生事業のページを見るといくつかの使用実績が書かれています。そのまま預金して15年で6,000万増やした自治体もあれば、コンビニを作ったところもあり千差万別です。

函館イカモニュメントk

※函館のイカモニュメント トリップアドバイザーより

驚かされるというか笑ってしまうのが、このタイミングでも函館市がイカのモニュメントを作っていることです。さらにこのモニュメントに関しては平成31年に市民から意見書が提出されています。

モニュメント等の実用性のないものの設置に関する検証についての意見書と回答

質問はモニュメントが本当に効果があったのかという内容です。当然、効果があったかどうかを定量的に判断するのは難しいので施工にかかった金額を開示するにとどまっています。

今回のモニュメントの制作の目的が観光誘致ということなので、人を呼べる他の施策と比較する必要があります。
観光を誘致するための方法は無数にあります。Web、パンフレット、SNS、テレビ、Youtubeなどのメディア制作や、一時期流行ったゆるキャラ、ツアーを企画するとかホテルを作るなど。
その中で2,500万円でできる最も効果的な選択ができればベストなのですが、モニュメントがベストだったかといえば疑問は残ります。

西新宿ロバート・インディアナのLOVE、直島の草間彌生のかぼちゃ、牛久大仏など、人があーあれねとすぐに思い浮かべられるようなモニュメントはそれなりの『見られる強度』を持って作られています。また直島でいえば島全体がアートの島としてフェスと町おこしが一体となり実現されたためその象徴としての草間彌生のかぼちゃが生きていると思います。

直島 かぼちゃ
KimonBerlin – flickr

今回のイカのモニュメントでいえば町にあるちょっと有名な公園ぐらいの位置付けになるのではないでしょうか。この話を最初に見た時にすぐ思い出したのは恵比寿のタコ公園こと恵比寿東公園です。

恵比寿東公園

市民としては嬉しいと思いますが、今回のイカのモニュメントはそこまでの見られる存在として、観光を誘致できるほどの「強度」があるのかといえばいささか頼りなくは感じます。

最近でいうと清水市がライナー付きプラモデルのモニュメントを作りが話題になっていましたが、個人的にはあちらの取り組みの方が清水といえばタミヤ、プラモデルという繋がりがわかりやすいのと長期的にモニュメントを増やしていくという取り組みだったため評価できると思います。

ネタとぴ

いずれにせよ、単発でモニュメントを作るという発想がちょっとバブル的であり、現代に本当に必要とされることが果たせているのかというのは再考するべき時期なのかもしれません。

モニュメントの制作自体を否定するものではなく大きなプロジェクトの象徴としてのモニュメントであれば必要だとすら思います。



結論とエール

今回の能登町の取り組みが大きなプロジェクトの最終アウトプットなのかは現段階ではわからないため、使い方が適切かどうかはわからない、という結論です。

ちゃぶ台をひっくり返すようですが、個人的にはこのイカのモニュメントは好意的にみています。造形的にもですが、非常に暗い先行きの見えない世の中において少しバカバカしいと感じる取り組みは楽しいとすら感じます。

国の予算、しかもをコロナ対策の予算を使ってイカのモニュメントを作ったというセンセーショナルな部分だけが取りだたされて、安易に批判の声が多く上がってしまったのは残念です。

もちろん税金なので使い道は議論が尽くされた上で検討されて使われるべきですが、本件に関してもおそらく無駄遣いしようと思っているわけではないでしょう。

良くも悪くも話題になったので物見遊山で来る人もいると思いますし、是非この注目された機会を生かして観光誘致を成功させてほしいです。

【特選 能登名産】丸干しいか 丸干しイカ


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