2021.2.27
アートとビジネスの関係は二つある ロジカルからデザイン、アート思考へ?
視界の端の方で「アートとビジネス」という言葉がちらつくようになってから何年か経ったような気がします。デザイン思考の次はアート思考か、とあまり気にも留めず関係書籍など読むこともありませんでしたが、たまたま「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」と言う本を読むことがあったのをきっかけに、幾つかの関連コンテンツを読んでみました。
アウトプットのコモディティ化
デザイン思考とはご存知の通り、世界に名だたるデザインファームIDEOのティムブラウンが2014年にデザインを生み出すプロセスを言語化して多くのビジネスパーソンと学生の心を鷲掴みにした書籍です。
それから3年後の2017年に「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」が発売され、皮切りにアートとビジネスの関係性を示唆するような書籍が乱立しています。
デザイン思考が問題を解決するための手段を幅広に考えるスキルだとすれば、アート思考(と呼べるものがあるのかはわかりませんが)は、審美眼を鍛え自分が何が欲しいかを判断するスキルを身につけることだと言うことが書かれています。
平たく言うと何が好きかをはっきり表明することです。
なんでこんなことがスキルとして持て囃されるかといえば、デザイン思考の前に流行っていた思考法があり、ITがビジネスの至るところまで活用されていくに従い、ビジネスにおいての答えを出すためのプロセスがその思考一辺倒になっていったからです。
それがロジカルシンキングです。
ロジカルシンキングは、データや環境を分析し答えを導き出す思考プロセスで、2000年前後から特にコンサルティングファームで活用されてきました。データに基づきロジックによって導き出される結論はビジネスの現場において納得感が高く、重宝されています。
しかし、データや環境を分析して導き出す答えは、データ量と分析能力に答えが左右されますが、分析能力とデータ量がある一定のラインを超えると結論が同じになることが多いため、特に優秀な人々の間で結論のコモディティ化が起きます。
ロジカルからデザイン、アート思考へ?
最初にロジカルシンキングの限界を感じた人々が取り組んだことが、チームでスーパースターのような結論を導き出す方法デザインシンキングです。
デザインシンキングは、もともとデザイナーがアウトプットを出すために用いることが多い思考プロセスだったため、ビジネスとの親和性が高かったことと、「デザインすること」自体がアップルのプロダクトなどで馴染み深かったため、すんなりと世間に受け入れられました。
しかし、SNSやTwitterなどが急速に広まり、組織やチームで作られた発信よりも、個人の発信が重視されていくに従いビジネスの世界でもより「個」のキャラクターを重視した決断が尊重されるようになってきました。
個の尊重は人がどう感じるか、どう考えるかを重視する考え方なので、感情を殺してデータで判断するロジカルシンキングとはある意味真逆の思考です。
そんなふんわりしたものをビジネスの現場に持ち込むのは難しいと考えた人が、苦し紛れに考えたのがアート思考なのではと思います。
デザインの上位互換のような存在としてアートが一般的に捉えられているのも、流れ的に受け入れられやすかったのでしょう。
アートそのものとビジネス
アートとビジネスの関係はもう一つあり「アート作品」そのものを社内に取り入れたり、アーティストとの共作するなど「アート」をアートとして活用することです。
そもそもアートとビジネスは古くから深い関係にあり、はるか昔の建築物のビックプロジェクトには時の権力者が必ず関わっていましたし、建物の中には権威を象徴するため美術品が必ず飾られていました。
安土桃山時代には日本最古のクリエイティブディレクター千利休がさまざまな作品を生み出し、それを政略、戦略上の道具として織田信長や秀吉をはじめとする武将が使ってきました。
「アートインビジネス」では、ヤマハやアクセンチュアがアーティストとの共同制作を通じて社員の思考をアップデートさせ、社内だけでは出来なかったアウトプットを実現した一例が出ています。
アートとビジネスの関係はこちらの記事が非常にわかりやすくまとまっていました。
【鼎談レポート】ビジネス×アートの最前線!3人のコンサルタントが語るその潮流とは?
アートとビジネスは関係するのか
アートと美術は常に近い関係にあり権力や財力を持った人間は常にアートに満たされてきましたし、個の思考の重要性が高まるとキャラクターがどれだけ立っているかがビジネス上のアウトプットの質に関わってきます。それ自体は間違いではないですが、ビジネスとアートが本当に関係するのかと言われると正直微妙だと思います。
※マルセルデュシャン「泉」写真:アルフレッド・スティーグリッツ
審美眼を鍛えることと自分の趣向を表明することをアート思考として、思考プロセスの一つとして捉えること自体には無理があります。現代アートの文脈で行われる問題提起の思考法を取り入れるのは難易度が非常に高いです。
アートとビジネスを関係させるのであれば限定的な分野で、アーティストをプロジェクトに巻き込むのが一番近道だと思います。
また何よりも、ビジネスの現場でミーティングなどに参加していて思うのは、会議の場で自分の意見を表現することができない人が多いことが問題だと思います。それは表現することに対する苦手意識、恥ずかしさなどと共に、資料をどうやれば見易く人の感情を動かすものにできるのかなどを考える力が弱いことが原因です。
そしてその原因を作っているのは表現するトレーニングが足りないことと、人が表現したものを嘲笑する様な文化になってしまっていることが少なからず影響していると思います。
アート思考を実現するには、アートを鑑賞する習慣、なんでもいいから作ってみる表現欲、人が作ったものを楽しめるファン精神が必要です。
人が作ったものを楽しめるファン精神を養うにはアートを鑑賞する習慣とそれに伴って鍛えられる審美眼が必要です。頭でみるだけではなく目で本当に楽しめるか、人の意見やネットで出回っている意見だけに依って自分の意見をもつことができない自分ではなく、観たものを素直に楽しめる自分でありたいです。
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書) 新書

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