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2014.6.12

デレク・ジャーマン エンターテインメントなヴィトゲンシュタイン


デレクジャーマンのヴィトゲンシュタインはその名の通り哲学を勉強している人間なら誰でも知っている20世紀最大の哲学者ヴィトゲンシュタインを舞台のような最小限のビジュアル表現で描き、ヴィトゲンシュタインとその家族の人生を時に滑稽に見えるエンターテイメントに帰結させた映画です。

ヴィトゲンシュタイン幼少期から少年期までを語り部となった幼きヴィトゲンシュタインが高等遊民と言ってもいいほど恵まれた境遇に生まれた自分や家族を皮肉たっぷりに語ります。

大人になったヴィトゲンシュタインは偏屈で気難しく、恵まれた境遇に生まれた知的な若者が陥りがちな財産を貧者に分け与えてしまうといった英雄的行為や、大義を抱き田舎の学校の教師になったもののすぐに挫折してみたりと哲学者というよりは思い上がった思慮の足りない若者の様に描かれています。

また本作の中でヴィトゲンシュタインはゲイとして描かれ、その恋人である自分の生徒を精神的に支配し、知的職業につくために大学へ通う生徒に工場勤めを薦めたり、自分自身も共産主義に活路を見出しモスクワに渡り労働者階級に身を落とそうとしたりすることで、考察ではなく実践に生きる価値を見出そうとします。

これら全てがテンポよく人物だけが浮かび上がるような最少の映像の中で語られ、よりその不器用な生き様が強調されるので哲学者としての面影はあまり見えません。そしてその人物像にはトルストイが戦争と平和で描いたピエールのようになんの不自由もない境遇に生まれても、今の自分に疑問を持つ事ができる感受性と知性を生まれ持つ人間がどれだけ生き辛いか、それに対する答えはなんなのかを探しもがく姿の美しさと悲しさが見えます。

実際のところヴィトゲンシュタインは浅はかな思慮で人生に絶望している若者とは訳が違います。この映画の中ではヴィトゲンシュタインがもともと数学的な思考をもち航空力学に興味があったことなど全く触れられてませんし、人間的な部分だけを浮出しているのでわかり易くもありますが語られていない部分も多いです。

ゆえに史実から離れているのでしょうが、その分映画としてのエンターテインメント性は高く、芸術的なセットを含めた映像美も含めかなりの良作となっています。

ヴィトゲンシュタイン(廉価版) [DVD]

 


縞模様の歴史

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