畑を耕すようにデザインの事を考えるデザイナーのためのマガジンPeeji(ペエジ)。

2017.10.30

ボサノヴァはなぜダサいと言われる音楽になってしまったのか 魚民ジャズに見るオシャレ様式美


みなさまボサノヴァという音楽をご存知でしょうか、2000年代に巻き起こったカフェブームでちょっと「オシャレ」な雰囲気を持ったお店はもれなく、このブラジルで1950年代に生まれた音楽を流しているという妙な現象が巻き起こり未だにそれは続いています。

若者の間でダサいと言われるボサノヴァ

そんなボサノヴァですが最近聞いた話だともはやボサノヴァはおしゃれな音楽ではなく、ダサい音楽として認知されているという話を聞き割と衝撃を受けるとともに多々思うところがあり書いてみます。

オシャンティなボサノヴァとジャズのBGMとしての使われ方

そもそも、今の10-20代がなぜボサノヴァがダサいと感じるのかといえば、以前はちょっと意識高い系のカフェのみで流れていたボサノヴァという音楽が、ちょっとオシャレな雰囲気を出したいお店は有線でボサノヴァチャンネルを流すというのがオシャレの様式美と化してしまったからです。

同じ現象はちょっとオシャレな雰囲気を醸し出したいダイニングバー、居酒屋、焼肉屋などがBe-Bopかウエストコーストジャズを流すという、いわゆる「魚民ジャズ」現象でも見ることができます。大衆的なお店マクドナルドなどでもサードプレイス※1化を進め店内の改装を始めてからボサノヴァやジャズが流れていますし、ちょっと微妙な内装のお店でもとりあえずボサノヴァ流しておけばオシャレでしょ、みたいなお店は増えた気がします。
つまりボサノヴァ・ジャズネイティブ世代の10代-20代はボサノヴァってマックで流れているアレでしょとか、ジャズって魚民で流れてるやつでしょ、という環境要因に基づく基礎知識が身についています。
カフェカレー
※カフェメニューイメージ。

代表的なオシャレ様式美

日本人は「オシャレっぽい」ものが大好きで、ここでいうオシャレなものとはその時、その時代にオシャレと認識されている見た目や音楽だったりします。
例えば2017年現在でいうと極端に様式美化が進んでいると思うのですが新しくできる商業施設のトンマナ※2がことごとくポートランドを発祥とする「サードウェーブデザイン※3」をベースに作られていることでもわかると思います。
「サードウェーブデザイン」とはDIY感や手作り感、VIは20-40年代に流行したタイポグラフィと飾りの罫、チョークアートや手書きのイラストを組み合わせ現代的に洗練させたデザインのことで、新宿NEWOMANや銀座の東急プラザなど近年できた商業施設はどこも同じテイストで作られていると思います。
サードウェーブデザイン
※PIE Booksサードウェーブデザインより。

音楽は低価格でできるオシャレ

見た目の様式美の他にオシャレに欠かせないのが音楽で、何しろ音楽は有線やApple Musicなどの定額料金を払えば超低コストでオシャレ雰囲気を出すことができます。そこによく使われるのがボサノヴァとジャズです。

ボサノヴァのルーツ

そもそもボサノヴァのルーツをたどってみると1958年ジョアン・ジルベルトが歌ったChega de Saudadeがボサノヴァの最初の一曲だと言われています。その歌い方はそれまでブラジルでよく歌われていたエリゼッチ・カルドーゾなどの声量が多く抑揚をつけて歌い上げる系の歌い方とは真逆でボソボソと聞こえるか聞こえないかぐらいの声で淡々と歌い、バックの音楽もクラシックギターをバチーダと呼ばれる指で弾く奏法で演奏する全体的に脱力系の草食系音楽です(ちなみにエリゼッチ・カルドーゾもChega de Saudadeを録音していますが、それはそれで味があります)。

※Chega de Saudade、ギターとボーカルだけの超シンプルな構成ですが改めてちゃんと聴くとすばらしくエッジが立ってます。

つまりそれまでモーツァルトからベートーヴェン、ワーグナーを経由して20世紀初頭のスウィングジャズからロックなど重量を増すことしか知らなかった音楽に、アンプを使って実現したアンチテーゼがボサノヴァで、名前の意味する通り新しい感覚の音楽(Bossa:瘤 Nova:新しい)を作りだすことがアントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトらのオリジネイターがやりたかったことで、オシャレな音楽を作ることが目的でなかったということです。

ボサノヴァはダサくもオシャレでもない

ボサノヴァやジャズほど便利に環境音楽として様式美に取り入れられた音楽はすくないのではないでしょうか、クリスマスにはマライア・キャリーが流れ、お正月になったら春の海が流れ、沖縄料理屋に行ったら三線が流れているのと同じぐらい、ボサノヴァとジャズはオシャンティなアイコンとして使われています。
そんなインテリアの一部として使われるボサノヴァですが、BGMをよく聴いてみるとボサノヴァだけでなくサンバやMPBもしくはジャズが混ざっていたり時代もいわゆるオリジネイターのものではなく現代だったりと割と曖昧に使われていることも多く、そもそもボサノヴァってフランスの音楽でしょ?とかいう人がいるぐらいなので、ボサノヴァとかジャズとかを明確に意識して聞いている人は少ないでしょう。

大事なのは何をどう訴求するかということ

ちなみにというか、私は今でこそボサノヴァ・サンバ、アルゼンチンタンゴなどをはじめとするワールドミュージックを愛していますが、16歳ぐらいの時友人にボサノヴァっていう音楽がいいらしいと初めて聴かされた時はなんとなく眠くなる音楽で、当時パンクとか激しい音楽ばかりを好んでいた自分には正直ピンときませんでした。なのでいまの10代の子達があんまりピンとこないのも結構気持ちわかります。

そしてその頃からすると今のボサノヴァはあまりにも消費されすぎたせいで目新しさが全くなくなり、もはやスーパーの中で流れているインストポップスレベルの大衆化を実現したおかげでもはやダサいなどと言われのない批判を受けることになりました。ですが、そもそも音楽にダサいもおしゃれもなく消費のされ方だけで判断されているだけで大事なのはその場所で音楽で何を訴求するかであり、ボサノヴァだろうがジャズだろうが、クラシックでもヒップホップでも惰性で音楽を選ばずに能動的に音楽をセレクトしていくことが少なくなった、日本のマーケットの問題なのではと感じるところです。

いろいろと書きましたが音楽が限りなく無料で聴ける世界で、自分が何を聴いているのか、何が好きなのかもわからない人が溢れている時代に抗おうって言っても無理ですし、こんな時代だからこそ音楽消費疲れしたリスナーから自分が聴きたいものを聴くという文化がまた復活するのではなんとなく楽観的に考えています。

そして今の時代だからこそこんな奇跡的な映像がブラジルからはるか彼方の島国日本で観られるということに感謝したいです。これはボサノヴァの創始者の二人ジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンが歳をとってから先述したChega de Saudadeを演奏している映像です。

これを聴くと毎回泣きそうになります。

音楽が無闇に消費されていく世の中でゆっくり音楽に向き合う事で得られる感覚をもっと大切にする文化作りに関わっていきたいです。

Getz/Gilberto

※自宅でもオフィス・学校でもない三番目の場所という意味、スターバックスなどがよく引き合いに出される。
※トーン&マナーの略、ブランドのビジュアル、コミュニケーションなどのガイドラインを定義するもの。
※PIE BOOKSが2016年に発売したサードウェーブデザインという書籍で使われたタイトルから。特に第一の波、第二の波があったわけではない。


縞模様の歴史

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