畑を耕すようにデザインの事を考えるデザイナーのためのマガジンPeeji(ペエジ)。

2017.2.15

デザインの敗北、日本美意識の敗北 テプラ・ラミネート文化の勝利


最近、各所で「デザインの敗北」と称してお店の什器や設備にテプラや手書きなどで日本語サインが追加された写真がアップされているのを目にします。

デザインの敗北序章

皮切りは佐藤可士和デザインのセブンイレブンのコーヒーメーカーではないでしょうか。
このような今「デザインの敗北」と呼ばれている現象に関しては、一末端デザイナーとしては心を痛めており昔から感じていたものの一番強くそれを意識したのは下記写真のサインを見たときです。

ヒカリエ デザインの敗北

2012年渋谷にヒカリエという商業施設ができたときすぐにJRの連絡通路に貼られた看板です、おそらくJRの駅員が毎回聞かれるので自分で作って貼ったのではと思うのですが、もちろんヒカリエのトンマナ無視、わかればいいという感覚がとても伝わってきます。

本当に負けているのか?

そもそも今デザインの敗北と言われている現象ですが本当に単純にデザインの敗北なのかと考えさせられます。
というのも今デザインの敗北と言われているのは物の形状で全てを伝えなければいけない事を前提に話をされていますが、形状をデザインする事とそこに発生するであろうコミュニーケーションまでを含めデザインすることは別だからです。さらに言えば日本人がコミュニケーションに対して持つ資質の変容や美意識に対する意識の低下、文化の形成まで考えなければデザインの単純な敗北と決定づけてはいけないと思います。

僕は仕事柄最も消費者に近い現場でデザインの仕事をする事が多く、そのため常に人がそれを見たときにどう感じどのような行動するかを議論することが多いのですが。そこでいつも感じるのはサインや言葉で全てを伝えようとする日本の文化です。
そしてそこにはいつも現場の人間の面倒くささや手間を省くこと、顧客側のもっとわかりやすくしてという要望があります。背景にはいつも日本人の言葉のコミュニケーションを避ける感覚や情報を取りに行こうという意識の欠如が感じられます。

国際展示場前
※国際展示場前の床に貼られたガムテープで貼られたサイン、これがなくても出口はすぐわかるのですが。

ヨーロッパに行くと驚くのですがそれはインフォメーションの圧倒的な少なさとそれでもきちんと機能する「大人の」文化です。特に駅などでは本当に情報が少なく、昔イタリアに行った時は全てのホームについている時計の時間が微妙に違う笑ぐらい、日本だったらすぐにクレームが入ったりわかりにくいからなんとかしろと言われるぐらいだと思います。地下鉄などでも日本だったらA1口を出るとどんな施設があるかなど細かく書いてありますが、ヨーロッパではそこまで細かくインフォメーションがあることは少ないです。
Principe Pio
※スペインPrincipe Pio駅、必要最低限のインフォメーションです。

日本人が昔からそういう気質だったのかはわかりませんが、歌川広重の浮世絵などを見ていると結構看板や札などが出ているので気質としてはあまり変わっていないのかなとも感じます。

歌川広重 大津

ラミネーター、テプラの功罪

ただ、サインの作り方を簡単・便利にするアイテム、テプラやラミネーターが出てきてからのサインの作り方というか考え方は変わってきているのではと思います。
デザインで文字の大きさは声の大きさに例えられることがあります、大きい文字は声が大きく、小さい文字は声が小さいという意味です。よく街中で見る「デザインの敗北」現象はいつも声をマックスにしてただ伝われれば良いという乱暴さを感じます、さらにラミネート文化が加わることで美しくないものの固定化、機微の欠如など、そこに美意識や受け手に対する感覚的な優しさを感じないのです。

そしてテプラに関してはどんなものに貼られても発色の良さで非常に目立つ反面、対象物と一切同化しようとしないテプラは、商品の特性としては完璧ではあるものの、その分味気なさは他のどんなラベルよりも強いものとなっています。

tepra
※こちらは某区役所の真っ白な壁にポツンと貼られたテプラ、引きの写真がないのですが3mぐらい離れてもしっかり目立つ存在感でした。そして壁にはこのテプラ以外のものは何も貼られていないという。

デザイナーとしての取り組み方

ある意味デザインは敗北しているとも言えるし、敗北していないとも言えます。
敗北しているというのは形状のデザインだけで終わっているため、そこにどのようなコミュニーケーションが生まれるか想像できていないということ。セブンイレブンのコーヒーメーカーの件で言えばなぜあのような形状でなければいけないのか、店員に伝わっていないのかそもそもそのコンセプトがないのかはわかりませんが徹底できておらず、そしてそこに生まれるであろうコミュニケーション、例えばRとLがわかりにくくて店員に聞かなければならない、もしくは間違えてしまう事を不要だと考えさせるような構造になっていたということです。
セブンのコーヒーメーカーに関しては、普通に考えてもちょっとわかりにくいので例としては不適切かもしれませんが。

セブンイレブンコーヒーメーカー
※インターフェイスがアップデートされたセブンイレブンのコーヒーメーカー最低限ですがわかりやすくなっています。

ただ、デザインを敗北させることが変に流行ってテプラやラミネートで手作りサインを追加することが顧客満足への増加だと勘違いする人が増えることは非常に怖いと思います。日本の街並みは普通に考えて面白くはあるけど美しくはないし、その背景にある日本人の意識が乱暴さや雑さに根付いているのではと感じるからです。
自分のような末端デザイナーにどのようなことができるのかいつも考えていますが、そこには文化の醸成が必要でもはやデザイナーとしての仕事だけではないのかもしれません。

そんな中でも今後やはり忘れてはいけないのはデザインワークというものは意匠や形状を決定するだけの仕事ではなく、そこに発生するコミュニケーションまで考えなければならないということです、まだまだできていないところですがデザインが敗北しないために精進します。

伝わるデザインの基本 増補改訂版 よい資料を作るためのレイアウトのルール


縞模様の歴史

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